2012/1/27
Vol.035-帰り道
――冬、ほくほくとした気持ちを抱いて進む帰り道。
新年です。
冷たく澄んだ空気の中をほんわり漂うカレーの香りに食欲がわき、おぉこれはナポリンタンの香りかな、あぁ今度はマクドナルドの香りだ、なんの焼き魚かな、と目立つ……いやこの場合見えてないから鼻立つ香りにほっこりした気持ちになります。
冬の外にいるときに鼻腔に届く夕飯の匂いは、芯があるというか、滲んでいないというか、温度があるというか……、空気が冷え乾燥してるせいで余計そう感じてしまうのか、とてつもないほどのぬくもりを感じます。
向かってくる自動車のヘッドライトや、遠く離れていくテールライト、街灯越しに点々と見える星、そういった光景ひとつひとつが、こっそりつんつんと心を震わせてきます。こういう感覚がたまりません。
といっても夏は夏で、高温多湿の空気と混じった哀愁漂う匂いも良くて、どうにも比べることはできないのですが、やはり今この季節を生きていると、ちょっとした日常の出来事に、思わず小さな幸せを感じてしまいます。
皆様、新年とっくに明けてましたね、おめでとうございました。
パソコンに保存された少し前の写真を見ていて、思わず昨年の出来事を書きたい衝動にかられましたが、干支も変わったことですので、昨年の出来事は下の写真のみで終わりとさせていただきます。
![]() 昨年12月の皆既月食の途中、部分月食。 |
![]() 皆既月食。10円硬貨のような赤銅色になりました。 |
![]() 普通の満月に戻りました。 |
![]() 我が家の年越しは毎年沖縄そばです。 |
さて新年ですね。遅れ馳せながらのご挨拶も済んだことでなので、それでは今年の話を。
新年一月も半ば、地元の警察署、磯子警察署にいってきました。
ついに交番ではなく警察署のお世話になる日がやってくるなんて……、悪い事なんか、悪い事なんかしてません。まさか……いいや、ついに、というべきなのでしょう。
実をいうとしばらく前から、行かなくちゃいけないと、ずっと思い続けていました。
三年前――、そう三年前のあの日からずっと、行かなくちゃいけない、心の隅にはつねに忘れずにそう思っていました。警察署にお世話になるのはもはや必然だったのです……。
三年前、二〇〇九年一月――。
場所は神奈川県横浜市旭区中尾二丁目三番一号、神奈川県警察本部交通部運転免許本部、通称二俣川試験場。そうです神奈川県民おなじみの試験場です。
忘れられません、忘れませんとも、忘れることなど出来るものかっ!
免許証のICカード化が始まった年でした。だから印象的だったという訳ではなく、そんなことよりなによりも、数年単位で持ち続けなければいけない免許証の証明写真を、納得のできない形で撮影されたという出来事があったので、それはもうしっかりと覚えているのですよ。前の免許の写真も、その前の写真も、それはそれは残念な証明写真だったので、今回こそはそれなりに撮れれば……、と思っていたのですが、またしても失敗に終わったのです。
証明写真の撮影に並ぶ列が、写真撮影班の腕の見せ所とばかりにリズムよく捌かれてゆき、じわじわと迫りくる撮影の順番。自動車生産ラインのような機械的な流れ作業、あと三人、二人、一人……、ついに順番が回ってきました。この日人が多かったからといっても、この速さにはライン工もきっとびっくりです。
青い背景の前に置かれたパイプ椅子、その真正面にあるレンズと照明、うわぁ嫌だなこの照明の当たり方、今回ばかりは無難に撮影されますように、そう思いつつ撮影班の恰幅の良い女性職員に促され椅子に腰を下ろした時でした。お尻が地についてないというか、厳密には腰が据わってない状態でした。
よし、撮ってもらうぞ! と思った時にはすでに遅く、いや、むしろ速く、「はい、いいですよ」と撮影終了し、もう次の人が促されているではありませんか。オスメスを瞬時に仕分けるひよこ鑑定士の如く素早い作業で、慌てているわけでも急いでいるわけでもなく、これが普通といわんばかりのプロフェッショナルの貫禄すら感じられる女性職員の隙のない見事な手捌き。
こんなに早いなら全日本初生雛雌雄鑑別選手権大会にでも出場すればいいんだよ、こんにゃろー! と憤っても、もう一度撮ってくださいなんていえやしませんでしたよ、大きくなったひよこはチキンて呼ばれるんですよ。
新しい免許証はもうお察しの通り、免許証提示をする機会の度に辱しめられているような心持ちになる仕上がりになっていました。第三者がそんなことないよー、大丈夫だよー、といっても自分の中で折り合いがつけられないものであれば、もうそれはアウトなのです。
![]() 磯子警察署。 |
![]() 交通安全協会。 |
――それが三年前の出来事。
その新しく交付された免許証を手にしたとき、次回からは何も問題なく過ごせればゴールド免許、すると五年間は同じ写真、五年間も辱しめアイテムを携帯なんてしたくない! ならば次回は写真持参が可能な警察署で更新をするぞっ! そう決意したのでした。
そしてついに三年の沈黙を破り、妙に愛着の沸いてきてしまった辱し免許証を持って、磯子警察署にやってきたのです。警察署隣の交通安全協会で3250円分の証紙を購入し、毎回毎回配布される冊子を受け取り、警察署内へ。
免許受付窓口で更新手順を案内され、ICカード化されている今の免許証を専用の機械に挿入し、新しい暗証番号の入力。それが完了すると機械から自動で出力された運転免許更新申請書を受け取り、記載事項をボールペンでしっかりと記入し、証紙を張って、持参した免許証用写真を貼って窓口に提出。視力検査も問題なく済み、あとはビデオ講習だけかなーと思っていたらその前に、免許証の受け取り方の説明が。
「免許証は警察署で受け取りになりますか?」
ふふふ、後日交付ということは更新連絡所に記載されていたからわかってたさ、この時期自転車をもりもり漕いでここまで来るのはちょっときついんですよ。ふふふ、郵送って手段もあるというのは知ってるんですよ、あえて「送ってもらうことはできますか?」と訊いてみれば1000円かかるというではありませんか。
あれれ、あれ、そんなにかかるものなんですか、予想外だな、こまったったなぁ……。さらに「警察署まで取りに来るとしたらいつ頃くれば?」と訊ねればなんと一ヵ月~三ヵ月の間にというではありませんか。早くて一ヶ月、そんなにかかるんだ……。1000円は払えなくはないけど、送ってもらうのに1000円はちょっと高い……。結局、また受け取りに来ると答えると、免許証の裏に三ヵ月後まで有効の印を目の前で押されて「それでは免許証は帰りに受け取ってください」とビデオ講習へと促されました。おかしいな、郵送でお願いします、とキリッというシミュレーション家でしてきたのになぁ……。
受付窓口から目とまつ毛の先くらいの場所に、医療施設にあるようなスクリーンパーテーションで区切られたスペースでビデオ講習。すでにビデオ再生がされていて、椅子に座ると「今のところよく覚えておいてください」と講習担当の職員さんに言われ、今のシーン重要なのか! テストに出るのかな! なんてどきどきわくわくしつつ鑑賞すること数分、ビデオ再生終了。それから証紙を購入した時に受け取った冊子を使って、定年を過ぎたくらいであろう担当の男性職員さんの口頭講習。
「みなさんはせっかくの優良運転者なので、長くなったらなんの得もなくなっちゃうのでね、早く終わらせますね。長く話しても私は良いですよ」と冗談を交えながら、てきぱきと講習は進み、重要な部分の説明を受け講習は終了。再び同じビデオが再生され、先程「よく覚えておいてください」といわれた所のシーンまで見たら、受付で免許証を受け取って帰ってください、とのこと。なるほど、効率よく進めるためだったんですね。
数分後、覚えていたシーンを確認してから免許証を受け取り、警察署を後にしました。またしばらくしたらこないといけないのか、しかも免許交付してくれるのは平日のみ……。
というわけで、運転免許証更新の話をここまで長々としておいてなんなのですが、特にオチもなくこの話は終わり。
*
さて、そんな免許証更新の話から少し時間を遡ること新年は二日目の出来事。
磯子七福神巡りをしてきました。おや、なんだろうこの既視感……、あれ、三年前のコラム(Vol.022)でも免許更新と七福神のこと書いてたっけ。
日枝大神(ひえおおかみ)、山の中腹にあります。 |
磯子七福神は高野山真言宗の七つの寺院で構成されています。磯子七福神といってもすべて磯子区にあるわけではなく、磯子区には五柱、そして南区に二柱の神様が祀られています。
三年前と同じ様に、金蔵院から反時計回りで廻っていくことにしましたが、今回は歩きではなく自転車で回ることにしました。
時刻は14時少し前、まずは弁財天の祀られている金蔵院、の予定でしたが、金蔵院の少し手前の日枝大神でお参り。七福神巡りが無事に完遂できますように、と。
この日枝大神は、鎌倉時代の1328年にはすでにこの高台に鎮座していたという記録が残っているそうです。火災や震災で幾度となく社殿が消失したそうですが、その度に復興されてきたとのこと。わお。
日枝大神でのお参りを済ませ、次は目と鼻の先にある金蔵院へ。自転車だと楽ですね、1分もかかりません。
まずは金蔵院の本堂左側にある観音堂でお参り。弁財天が祀られています。
観音堂まるで神社のような造りをしていますが、群馬県妙義神社の本地堂から移設されたものだとのことで、納得です。順序が微妙に逆になったような気がしますが、今度は本堂に移動してお参りです。
![]() 金蔵院(こんぞういん)、本堂左にある観音堂に弁財天が祀られています。 |
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本堂の拝殿の前に設置された机に、「福アメ」と朱色の筆文字で書かれた紙が貼られた大きなアクリルの箱が置かれていました。箱の中に大量のあめ玉が入っているのを確認。その箱の側には「あめ お一人二ヶ お取りください」の木板の置き書きが。なんともお寺らしい心遣いです。しかもKasugaiの黒あめという渋いチョイスがまた、妙にお寺っぽさを感じさせます。お言葉に甘えて二つ黒あめを頂きました。
![]() 真照寺(しんしょうじ)、毘沙門天が祀られています。 |
![]() 密蔵院(みつぞういん)、布袋尊が祀られています。 |
寶積寺(ほうしゃくじ)、恵比寿が祀られています。 |
再び自転車を走らせて次に向かったのは真照寺、そしてオリエンタルな雰囲気を感じさせる造りを鑑賞し、お参りをしてから密蔵院へ。他に誰も七福神めぐりをしていないのか、密蔵院には10分ほど滞在しましたが誰一人ともすれ違うことなく……、そして今度は寶積寺へ。
寶積寺はうれしいことに本堂へ上がることが出来ました。お寺の本堂の中の装飾というのは、どこのお寺も大抵、それはそれはもう大変立派に飾られているのですが、寶積寺も威風堂々としていて実に厳粛な気持ちにさせてくれました。
![]() 寶生寺(ほうしょうじ)、寿老人が祀られています。 |
![]() 弘誓院(ぐぜいいん)、福禄寿が祀られています。 |
さてさて、次にやってきたのは寶生寺と弘誓院です。このふたつの寺院は南区になります。寶生寺は山の中腹に位置し、本堂までは長い石段を上ることになります。弘誓院まではこのまま山道を通ってショートカットできるのですが、今回は自転車で来ているのでお参りを済ませた後、反対側にある弘誓院へ廻りこんで、お参りを。
![]() お三の宮日枝神社 |
![]() 金剛院(こんごういん)、大黒天が祀られています。 |
6時少し前。日没は16時40分……、七福神巡り達成までは金剛院の一ヵ所のみ。日が落ちるまでに行けるか少し不安になってきたものの、せっかくここまで来たのだからと、吉野町方面へと寄り道、お三の宮日枝神社へ行きました。お寺だけだと神社不足な感じがしてしまうのです、なんとなく。
お参りを済ませて、次は七福神最後の金剛院へと向かいます。陽が徐々に落ちてきて、もう自転車のライトを点けないと警察官に注意されそうなくらいになってきました。
急げ急げ……!
上ったり下りたり、結構きつい道のりも、自転車から一度も降りることなくもりもり漕ぎ続け、金剛院に到着。汗が、汗が止まらない、暑いのに汗のせいで余計に寒い。暑いのに寒い、なんという二律背反。
寺務所の方に「七福神全部廻られたんですか? お疲れ様です」と労われ、汗と一緒に今日一日の達成感が一気にあふれてきました。言霊というだけあって、言葉には力がありますね。
時刻は16時半、無事に日没前にに七福神めぐりを終えることが出来ました。
![]() 金剛院には七福神の像が並んでいます。 |
![]() 岡村天満宮の鳥居。空に月が出ています。 |
金剛院まで来ると、岡村天満宮が近いんですよね。ということで、最後に岡村天満宮へ寄ることにしました。
灯篭が灯っていて、今日は明るいなぁと思いつつ石段を上り、社殿のある敷地までくると、たくさん照明が設置されているのが見えてきました。おやおや、なんと屋台まで出並んでいるではありませんか。なんだろうこの最後にふさわしいうきうき感あふれるシチュエーションは。たこ焼きに焼き鳥に、とても素敵な香りがただよっているではありあませんか。
参拝者もこの日廻った寺社の中で一番多く、親子連れの家族もいてきゃっきゃと笑いあっていて、社務所も臨時巫女さんを雇っているせいでか、きらきらぴかぴかと賑わっていて、実に平和な空間が広がっていました。いいないいな、この福福しい感じ。
拝殿で本日最後のお参りと、なんとなく七福神めぐり達成の報告、帰宅までの無事を祈って、境内をまったりうろついてから、自宅へと帰ることにしました。
![]() 牛の像に鏡餅がお供えしてありました。 |
![]() 岡村天満宮。屋台が出て賑わっていました。 |
帰り道の途中、日没後の富士山の影がやけにぐっと来て、思わず自転車を降りて見入ってしまいました。上大岡方面のビル群のシルエットも、雲や空の色が上手いこと重なっていて、なんだかとても不思議な気持ちになります。
![]() 富士山。 |
![]() 上大岡方面。 |
たまに、こういった景色に心を奪われることがあって、落ち着いて眺めているけてど心の中では高揚していて、幸せなんだけど幸せとはちょっと違うような、誰かに伝えたいわけでもないけど、早く家に帰りたいような気持になります。そんなふうに思いつつも、やっぱりしばらく見ていたくなります。気が済むまで眺めたら早く帰りたい、早く帰りたいけど気が済むまで眺めていたい。帰省本能だけをくすぐられる感じとでもいうのでしょうか。
こんな風に一つの言葉で表せないような瞬間や気持ちがわいてくると、とても得をしたような気がしてうれしくなります。半分くらい満足してから、再びペダルに力をこめました。家に着く頃には八分目くらいになっているのでしょうか。
冬、ほくほくとした気持ちを抱いて進む帰り道――。






日枝大神(ひえおおかみ)、山の中腹にあります。














